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東京地方裁判所 平成7年(ワ)4852号 判決

原告 日本エステート株式会社

右代表者清算人 A

右訴訟代理人弁護士 澤井英久

同 青木清志

同 古賀政治

同 相川泰男

同 杉原麗

同 近藤泰明

同 金﨑浩之

同 野田友直

被告 株式会社第一コーポレーション

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 牛久保秀樹

同 上野廣元

同 安川幸雄

同 南惟孝

主文

一  被告は、原告に対し、金七五億円並びにこれに対する平成五年四月二二日から同年六月二〇日まで年五・九パーセントの割合による金員及び同月二一日から支払済みまで年一八パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、原告と被告との間で取り交した「保証契約証書」と題する書面を根拠に保証債務の履行を請求し、これに対し、被告が、右書面は被告が保証債務を負うことを定めたものではないと主張して争っている事案である。

一  前提事実

以下の事実は、証拠を括弧書きで摘示した部分を除いて、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認められる。

1  原告及び被告は、昭和五七年六月二二日、業務提携契約を締結し、被告が融資希望者の所有不動産の担保価値等を調査し、原告がその者に対して右不動産を担保に貸付を行うという「フリーローン」と呼ばれる提携業務(以下「本件提携業務」という。)を行っていた。

2  原告及び被告は、平成元年九月二九日、本件提携業務について、同日以降原告より貸付を受ける者が原告に対して負担する債務を被告が保証する旨の記載のある「保証契約証書」(以下「本件契約証書」という。)に記名捺印し、その内容のとおり合意した(以下、「本件契約」という。甲第一号証)。

3  原告は、石脇不動産株式会社(以下「石脇不動産」という。)に対し、平成二年九月二一日、本件提携業務として、次の約定で、金七五億円を貸し付けた(以下「本件融資」という。甲第二号証)。

(一) 返済期限 平成七年九月二七日

(二) 利息 長期プライムレートに一パーセントを加えた変動利率とする。

(三) 利息支払期日 初回は借入日に、第二回以降は返済期限まで毎年一月、四月、七月、一〇月の各月二一日に、それぞれ次回の利息支払期日までの利息を支払う。

(四) 遅延損害金 年一八パーセント(年三六五日の日割計算)

(五) 期限の利益喪失 借主が債務を履行しない場合は、貸主の請求により、借主は期限の利益を失い、直ちに全債務を履行する。

4  石脇不動産は、平成五年四月二一日支払期日の利息金(利率五・九パーセント)の支払を怠った。このため、原告は、石脇不動産に対し、平成五年六月一五日、右利息金の支払を催告し、同月二〇日までにその支払がない場合は、石脇不動産は期限の利益を喪失し、本件融資に基づく債務全額を直ちに支払うよう請求したが、石脇不動産は右支払をしなかった(甲第四号証の一、二、第一五号証)。

二  争点

1  保証契約の成否

(被告の主張)

本件契約は保証契約ではない。

(一) 本件提携業務においては、昭和六三年三月一日付「事故案件処理に関する協定書」(以下「事故処理協定書」という。)により、借主が貸付金の返済を遅滞しているなど原告の債権及び担保権等の保全を必要とする件(事故案件)の発生による損害は、担保物件の競売その他任意売却等の手続について、原告及び被告が協議した上、基本的に原告及び被告が折半して負担することとされている(事故処理協定書二条)。したがって、右のような担保物件の競売その他任意売却等によっても、原告の貸付債権に未回収金が発生した場合に、これを原告及び被告が折半して負担するのである。

(二) その後、平成元年に消費税の課税が開始され、被告の本件提携業務による提携料等の収入の会計処理項目を非課税項目である保証料という名目にする方が節税になることなどから、原告及び被告は、平成元年九月二九日、本件契約証書を取り交わした。

(三) 本件契約証書中には、保証文言があるが、保証債務履行の方法、時期、保証債務額の範囲についてはその都度原告及び被告間で協議の上決定するものとし(本件契約証書七、八条)、かつ従前の協定書等について本件契約後も継続して効力があるものとしている(本件契約証書一三条)。したがって、事故案件については、従来どおり、原告及び被告間において協議を行い、事故処理協定書で定められた仕組みに則って処理することとなるのである。本件契約は、このような本件提携業務の内容を保証契約という法形式を利用して表現することにしたにすぎず、保証債務を定めたものではない。

(原告の主張)

本件契約は保証契約である。

(一) 本件提携業務においては、被告が原告の申立てた担保不動産の競売に原告の貸付総債権額で入札することとされている(事故処理協定書一一条)。原告及び被告は、右のような取扱いをより法的に明快かつ簡明な内容とするため、両者間の契約関係を保証契約とすることに合意し、本件契約証書を取り交わしたのである。

(二) 一般に、当事者間において、先に合意された内容が、後に合意された内容に矛盾する場合は、その限度で後の合意が優先し、先の合意は効力を失う。したがって、本件契約証書第一三条の規定があるとしても、被告が保証人としての責任を負担しているということに矛盾する従前の協定書等の合意は効力を有しない。

(三) なお、被告は、原告に対し、平成四年三月三一日、本件融資に関し、保証債務を負担していることを再確認し、被告の保証債務の履行方法、時期等について協議の上、石脇不動産が延滞を開始した後四か月を経過したときに保証履行を行う旨約諾した(甲第三号証)。

2  検索の抗弁

(被告の主張)

仮に本件契約が保証契約であるとしても、右保証契約は、連帯保証契約ではない上、原告及び被告間において、担保権の実行によっても原告の貸付債権に未回収金が発生した場合にこれを被告が負担する(主たる債務者の一般財産のうち、少なくとも担保物件について、担保権の実行が功を奏しない場合に被告が保証債務を履行する)という検索の抗弁と同様の内容が合意されており、商法第五一一条二項の適用を排除する旨の合意があった。したがって、被告は、原告に対し、検索の抗弁を主張する。

(原告の主張)

保証契約である本件契約は、商人である原告及び被告がその営業のために行った行為によるものであるから、商法五一一条二項によって、被告は主たる債務者と連帯してその責めを負うべきことになる。したがって、被告は、連帯保証人であって、検索の抗弁権を有しない。また、被告主張の合意があったことは否認する。

3  期限の猶予

(被告の主張)

仮に本件契約が保証契約であるとしても、原告は、石脇不動産に対し、平成六年九月九日、訴訟上の和解において、本件融資に基づく債務の履行を二年間猶予した。

(原告の主張)

原告及び石脇不動産らとの間で平成六年九月九日に成立した訴訟上の和解において原告が猶予したのは、債務の履行ではなく、強制執行であって、原告が石脇不動産に対して本件融資に基づく債務の履行について期限の猶予をしたことはない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

第四争点に対する判断

一  保証契約の成否

1  後記括弧内記載の各証拠のほか、甲第一三号証、乙第三、第一〇、第一一、第一四から第一六号証、証人C、同D及び同Eの各証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告及び被告は、昭和五七年六月二二日、不動産担保ローンに関する業務取扱契約を締結し(乙第一号証)、その後逐次内容を改訂、補充し、昭和六三年三月一日には、事故処理協定書(乙第二号証)を締結した。これらによる本件提携業務の内容は次のとおりであった。

(1) 被告は、融資希望者から借入申込書の提出を受け、その者が担保として提供すべき不動産の担保価値の査定を行うなどその者の信用状況を調査して原告に紹介する。原告は、右調査を受け、借入申込に対する諾否を審査し、貸付資金の調達、不動産に対する抵当権の設定、貸付の実行等を行う。

(2) 利益の分配

本件提携業務から生じる利益(利息収入、各種手数料収入)は、ほぼ折半とする。

(3) 事故案件の発生による損害については、原則として、次の区分に従って負担し、双方が負担する場合はすべて折半とする(事故処理協定書二条)。

① 担保物件の瑕疵(調査過程におけるミス)は、被告が負担する。

② 債務者・連帯保証人・担保提供者等の確認で、いずれの責にも帰さない場合は、双方が負担する。

③ 担保権の設定(故意、過失によるもので、法務局の過失、不備によるものは除く)は、原告が負担する。

④ それ以外の原因でいずれの責にも帰さない場合は、双方が負担する。

(4) 事故案件については、原告が自己の判断又は被告の要請により競売手続を行い、被告は、原則として、原告の貸付総債権額(元金、利息、遅延損害金)を入札金額として入札する(事故処理協定書六条、一一条)。

但し、被告が原告の貸付総債権額をもって入札すると、被告が競落した担保物件を転売するときに損失が見込まれる場合、被告は、原告に対し、その計算根拠を明示し、入札金額について、元金及び利息と、遅延損害金を約定利息の利率で計算した額との合計額を下限として、原告と協議することができる。

また、被告が原告の総債権額をもって入札し、原告に対する配当金額が、利息・遅延損害金について弁済期が到来した最後の二年分の範囲内に制限されたために、元金及び利息と、遅滞全期間の遅延損害金を約定利息の利率で計算した額との合計額を下回った場合、その差額の損失は双方折半して負担する。

(二) その後、被告が借主に対して返済を督促する際、借主から原告と被告との関係についての問い合わせが増えたことなどを契機として、原告及び被告は、その法律関係について協議し、両者の法律関係を保証関係とすることとし、次のとおりの本件契約を締結した(甲第一号証)。なお、保証契約を締結し、被告が本件提携業務から得ていた利益配分の会計処理項目を保証料とすることは、当時課税が始まった消費税の関係で、被告の節税に資するものでもあった。

(1) 第一条(保証の対象)

被告は、本件業務提携に基づき、平成元年一〇月一日付現在、原告が被保証人に対して有する貸付債権及び本契約締結日以降取得する貸付債権のすべてについて、保証人となり、債務履行の責めを負うものとする。

(2) 第二条(保証契約の成立)、第四条(保証契約の効力)

被告は、本契約書により、包括して原告に保証するものとし、個々の貸付の都度個別に保証書は差入れないものとする。保証契約の効力は、平成元年九月三〇日現在において原告が既に貸付を実行したものについては、この契約書の締結日に、平成元年一〇月一日以降においては原告が貸付を行った実行日に生ずるものとする。

(3) 第七条(保証債務の履行)

被告は、被保証人が原告及び被告の請求にかかわらず、被保証債務の全部又は一部を履行しなかったときは、原告に対し、保証債務を履行するものとする。但し、保証債務履行の方法、時期についてはその都度原告・被告協議の上決定する。

(4) 第八条(保証債務額の範囲)

被告は、原告から保証債務履行の請求があったときは、債務の残高(元本)に利息、保証債務履行日までの遅延損害金及び原告が被保証人に対して立替えた費用の合計額を保証債務額として原告に支払うものとする。但し、原告・被告間にて協議の必要がある場合は、別途協議するものとする。

(5) 第一〇条(保証料)

原告は、被告に対して、この契約に基づく被告の保証の対価として、利益(利息収入、各種手数料収入)の五〇パーセント相当額を支払う。

(6) 第一二条(必要事項の協議)

原告及び被告は、次の事項については、協議の上決定するものとする。

① 被告の求償権の行使等が極めて困難であると認められる場合の保証履行の時期、方法等。

② 被告が原告に対して保証債務の履行を行った後、求償権の行使、担保物件の処分等を行うにあたり、保証履行当時、原告及び被告が知り得なかった事由により、被告が過大な費用を支出した場合の原告・被告の費用分担。

(7) 第一三条(既存協定書の効力)

従前取り交わされた協定書等は、本件契約の締結後も継続して効力あるものとする。

(三) そして、本件契約締結後の事故案件の処理は、被告が、原告の申立てた競売に入札して担保物件を競落し、これを転売又は保有し、競落価格と転売価格の差額について生じた損失を被告が負担した例に加え、被告が、原告からの未回収金の支払の求めに応じ、これを支払った例や、被告が、原告から貸金債権の譲渡を受け、これを転売して生じた損失を負担した例など多様なものとなった。

(四) その後、不動産価格の急激な下落によって、担保物件を処分しても原告の貸金債権を回収することができない事態が多くなったことなどから、被告は、平成四年三月ころから九月ころにかけて、原告に対し、① 被告は担保物件の競売に入札する義務を負わないこと、② 三か月以上延滞となった貸付債権について、被告が保証債務の一部履行として貸付金の元金残高に対する年四パーセントの割合による金員を支払う代わりに、原告は、被告が右支払を継続している間は、被告に対して保証債務の履行請求を行わないこと(甲第一一号証)、③ 前記(二)の(4)記載の保証債務額の範囲の取り決めについては、事故案件処理に関して被告の負担が著しく大きい場合は弾力的運用を行うこと(甲第一二号証の一から三)などの見直し案を申入れたが、結局、原告は見直しを拒否した。そこで、被告は、平成四年一〇月、本件提携業務の見直しの交渉を推進するため、原告に対する保証料の請求を中断し、翌一一月、原告に対し、被告は原告の申立てた競売に原則として入札しないことを通知した。これに対し、原告は、競売で第三者が競落した場合は、原告の総債権額と原告に対する配当額との差額を保証債務額として、被告に対して保証履行を請求する旨回答し、保証料を送金してきたので、被告は、これを預り金として処理した。

右のような経緯から、原告及び被告は、平成五年四月から平成六年一〇月まで、一時的な解決策として、担保物件を第三者に任意売却し又は競売で第三者が競落するなどしても、その代金が原告の総債権額に不足し、未回収金が残った件について、右預り金を、被告から原告に対する右未回収金全額の支払に充当する例が続いた(甲第七号証の一から三、甲第八号証の一から五)。さらに、原告は、被告に対し、平成六年九月分以降の保証料の支払を、被告の原告に対する右未回収金の支払等と相殺処理する例が続いた(甲第九号証の一から五)。

(五) 石脇不動産は、大阪市西区〈以下省略〉所在の土地に高層ビルを建築して賃貸収益を上げるいわゆる江戸堀共同ビル事業計画に関連して、平成二年九月二一日に本件融資を受け、その際、原告に対し、平成二年九月二八日付根抵当権設定契約書に基づき、その所有する数筆の右事業用地に根抵当権を設定した。

石脇不動産は、平成三年一二月一二日、麒麟麦酒株式会社、株式会社ミタカ興産及びFとともに、右事業用地を、右四者を受益者として管理・運用する目的で、三井信託銀行株式会社に対して信託し、三井信託銀行は、右土地上に建物を建築し、賃貸事業を行う旨の土地信託契約を締結したが(乙第一二号証)、その際、石脇不動産は、右事業用地について原告に対して設定した前記根抵当権の設定登記を抹消することを要望したので、原告及び被告は、同根抵当権の抹消等に備えて、同日、双方が融資している石脇不動産及びFから右土地信託受益権について質権の設定を受ける旨の協定を結んだ(乙第一三号証)。しかし、原告は、石脇不動産が平成四年一月分の利息支払を延滞したことから(甲第一五号証)、その後も、本件融資にかかる貸付金の回収が不確実になるとの理由で、前記根抵当権設定登記の抹消に容易に応じようとしなかった。

このため、被告が原告に対し前記根抵当権の抹消方を何度も要請したので、原告は、平成四年三月三一日、被告との間で覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わし、次の①ないし③のとおり合意した上で、同根抵当権の抹消に応じた(甲第三号証)。

① 被告は、原告に対し、本件融資につき、平成元年九月二九日付保証契約証書に基づき、保証債務を負担していることを認める。

② 石脇不動産が延滞し、延滞の始期から四か月を経過した場合、被告は、原告に対し、債務引受又は保証履行を行うものとする。

③ 原告及び被告は、担保権の変更にかかわらず、原告の石脇不動産に対する貸付の最終期限は、平成七年九月二七日であることを確認する。

2(一)  以上の事実によると、本件契約は、被告が原告に対し貸付総債権額をもって入札する義務を負担するという関係を法的に明確にするために締結されたものであるが、本件契約証書には、被告が、原告に対して、原告より貸付を受ける者(被保証人)の債務を保証する旨明示され、その義務の履行方法について、被保証人が原告及び被告の請求にかかわらず、被保証債務の全部又は一部を履行しなかったときに、被告が保証債務を履行する旨定められ、その額についても、元本、利息、保証債務履行日までの遅延損害金及び原告が被保証人に対して立替えた費用の合計額とする旨明示されている。右のように、本件契約証書は、被告が、原告より貸付を受ける者がその債務を履行しない場合に、これと同一内容の給付をなすべき債務を負うことを明確に定めているというべきであって、被告の右債務は保証債務に他ならない。

なお、本件契約証書によると、被告が保証する債務は、原告が本件提携業務に基づき貸付を行った場合に取得する貸金債権と特定されており、本件契約において被保証債務が不特定であるとはいえない。

(二)  被告は、事故処理協定書による損害折半の処理が優先し、被告は保証債務を負わない旨主張する。

しかし、事故処理協定書においても、折半すべき損害の対象は必ずしも明確ではなく、被告は貸付総債権額をもって競売に入札することが義務付けられ、担保割れの事案においても遅延損害金の一部を除き同様とされているのに、入札後の損害折半の手続が全く規定されていないことなどを考慮すると、担保割れの事案についての回収不能部分が同協定書二条の折半の対象となる損害といえるかは疑問の余地がある。

また、この点を措くとしても、本件契約においては、保証債務額の範囲を貸付債務の総額と明示しながら、担保割れの事案等における保証債務額の範囲につき明示の例外規定を置いていないことを考慮すると、協定書の損害折半の合意が当然に本件契約の内容に取り込まれたとは認められないというべきである(既存協定書を有効とする旨の合意は、右の明示の合意と抵触しない限度での効力を確認したものというべきである。)。ちなみに、被告が、平成四年三月ころ、前記1の(二)の(4)記載の本件契約による保証債務額の範囲の取り決めについて負担が著しく大きい場合の弾力的運用を行うとの見直し案を申入れたことも、本件契約が債務の全額についての保証であることを前提として初めて理解できるものであり、この点も前記判断を裏付けるものである。

したがって、被告の主張は理由がないというべきである。

(三)  もっとも、本件契約第七条及び第八条が、但書として、保証債務履行の方法、時期、保証債務額について協議する旨定め、同第一三条が本件契約後も既存の協定書等がその効力を有する旨定めていることは前記認定のとおりであり、右条項は、事故案件について、保証によるか、事故処理協定書に定められた貸付総債権額による入札等の方法によるかなどについて、原告及び被告間において協議することを定めたものとみることができ、その協議は保証債務額にも及ぶものであるが、その協議が調わない限り、被告に対して保証債務の履行を求めることができないということまで定めたものとは解されない。

また、少なくとも本件融資については、石脇不動産が利息支払を一度延滞して本件融資が事故案件に該当した後に作成された本件覚書により、再度の延滞から四か月後には保証債務を履行することが確認されており、右協議は経由されたというべきである。

(四)  そして、本件融資について石脇不動産が原告の請求を受けてもその債務を履行せず、その後本件覚書において合意された再度の延滞から四か月間が経過したことは前記のとおりであるから、原告は被告に対して本件融資にかかる保証債務の履行を求めることができるというべきである。

二  検索の抗弁について

原告及び被告は商人であり、本件契約において被告が負う保証債務は、連帯保証債務であるから(商法五一一条二項)、被告は検索の抗弁権を有しない。また、本件契約において、主たる債務者が提供した担保物件について担保権の実行が功を奏しない場合に限り、被告が保証債務を履行する旨の合意があったことを認めるに足りる証拠もない。したがって、被告の検索の抗弁は理由がないというべきである。

三  期限の猶予について

1  弁論の全趣旨によれば、原告が、石脇不動産に対し、平成五年七月九日、本件貸付金のうち五億円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて訴えを提起したこと、平成六年九月九日、原告と石脇不動産らとの間で、次の内容を要旨とする訴訟上の和解が成立したことが認められる。

(一) 石脇不動産らは、原告に対し、金五億円及びこれに対する平成五年五月二一日から支払済みに至るまで年一八パーセントの割合による金員を直ちに支払う。

(二) 原告は、石脇不動産らに対し、和解成立後二年の期間を超えるまで、一定の場合を除いて右金員について強制執行をしない。

2  これらによれば、原告は、石脇不動産に対し、本件融資にかかる貸付金のうち五億円について、強制執行を猶予したが、債務の履行を猶予したとはいえないことが明らかである。したがって、被告の期限の猶予の主張は失当である。

第五結論

以上のとおり、原告の請求は理由があるので認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧澤泉 裁判官 齊木教朗 片山智裕)

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